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京都地方裁判所 昭和62年(行ウ)46号 判決 1989年5月31日

京都市南区鳥羽馬廻し町一四番地

原告

進工業株式会社

右代表者代表取締役

高村正夫

右訴訟代理人弁護士

水野武夫

増市徹

京都市下京区間ノ町五条下ル大津町八

被告

下京税務署長

川勝敦美

右指定代理人

笠井勝彦

石田一郎

村田巧一

谷川利明

川崎将

福住豊

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対し昭和六一年六月二〇日付でした原告の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(以下、本件五七年度という)の法人税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件五七年度処分という)のうち、所得金額二億三五〇〇万四五八九円を超える部分を取消す。

2  被告が原告に対し昭和六一年七月三一日付でした原告の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの事業年度(以下、本件五八年度という)の法人税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件五八年度処分という)のうち、所得金額一億五九一三万二七九七円を超える部分を取消す。

3  被告が原告に対し昭和六一年七月三一日付でした原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの事業年度(以下、本件五九年度という)の法人税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件五九年度処分という)のうち、所得金額三億二九五八万三三四四円を超える部分を取消す。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨。

第二主張

一  請求の原因

1  本件各処分の経過及び内容

原告は、電子部品の製造等を業とする株式会社であるが、被告に対し、本件五七年度、本件五八年度及び本件五九年度(以下、これらを本件各年度という)の法人税の確定申告をした。

被告は、本件五七年度処分、本件五八年度処分及び本件五九年度処分(以下、これらを本件各処分という)をした。

原告は、本件各処分につき、審査請求をした。

以上の経過及び内容は別表1上欄記載のとおりである。

2  本件各処分の違法事由

(一) 被告は、原告が原告の役員及び従業員(以下、これらを社員という)で構成された福利厚生団体である厚生委員会(以下、厚生委員会という)に支出した金員につき、原告が支出した時点では未だこれを費用の支出と認められず、厚生委員会がこの金員を現実に費用として支出した時点で始めて原告が費用を支出したことになるとして、原告が厚生委員会に支出した金員のうち厚生委員会が現実に費用として支出しなかつた本件五七年度八万六四三八円、本件五八年度一九三万七一九八円、本件五九年度一三七二万二三三一円の金額(以下、これらを福利厚生費否認額という)につき、これを原告の損金と認めず、本件各処分をした。

(二) しかし、厚生委員会は資金上も運営上も原告から全く独立した団体であるから、原告は厚生委員会に金員を支出した時点で費用を支出したこととなり、被告は福利厚生費否認額につき原告の所得金額を過大に認定したもので、本件各処分は違法であり取消されるべきである。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  請求の原因2の事実中、(一)は認め、(二)は争う。

三  被告の抗弁

1  原告の所得金額の内訳は別表1下欄記載のとおりであり、福利厚生費否認額の計算明細は別表2記載のとおりであるところ、本件各処分は、原告の所得金額を右のとおりとしたものであるから、適法である。

2  厚生委員会は、全社員が当然に会員となる団体であり、次のとおり原告がその運営に関与しているもので、原告から独立した団体ではなく、原告の事業の一部である。従つて、厚生委員会の収益及び費用は原告に帰属し、本件各処分は適法である。

(一) 厚生委員会には専従の職員がなく、その事務及び会計は社員が厚生委員会の役員として行なつており、その事務局というべきものもなく、その会議等も被告の施設において行なわれている。

(二) 原告は、本件係争各年度につき厚生委員会に別表2の厚生委員会会費の負担内訳<2>の記載のとおりの金員を支出し、その事業経費の相当部分を負担している。また、昭和五八年六月から昭和五九年一月まで厚生委員会に対して金員を支出しておらず、昭和五九年二月からは、厚生委員会会費の負担割合につき社員に不利益な変更をしている。更に、厚生委員会は、原告からの四五〇万円余の多額の会費を未収のままに放置しており、かつ、原告に賦課された税金一九六三万四六〇四円を何らの根拠なく支払うことなどもしている。これらのことは、原告が原告の経営状態に応じて厚生委員会への支出を操作していることの証左である。

(三) 厚生委員会の主な事業であるバカンス制度は、原告に永年貢献した社員に報いることを主たる目的とし、社員の勤続年数及び出勤率又は出勤日数を基準として定めた受益資格者に対し、その勤続年数に応じた特別休暇と金員を与えるものであるところ、このように通常の休暇以外の休暇を社員に与えることは、社員と雇用関係にある原告の意思によつてのみなしうるものであつて、原告が直接行なう表彰、記念品の支給等につき厚生委員会を経由させているに過ぎず、また、その手続きの実際も、社員がバカンス取得申請書を各所属長へ提出して出勤についての証明を受けるとともにバカンス実施時期についての承認を得たうえで厚生委員会に申請書を提出することとなつている。

3  ちなみに、法人税基本通達一四-一-四(福利厚生等を目的として組織された従業員団体の損益の帰属)は、従業員団体の損益の帰属を判断する指針を次のとおり示している。

すなわち、法人の役員又は使用人をもつて組織した団体が、これらの者の親睦、福利厚生に関する事業を主として行なつている場合において、その事業経費の相当部分を当該法人が負担しており、かつ、次に掲げる事実のいずれか一の事実があるときは、原則として、当該事業に係る収益、費用等については、その全額を当該法人の収益、費用等に係るものとして計算する。

(1) 法人の役員又は使用人で一定の資格を有する者が、その資格において当然に当該団体の役員に選出されることになつていること。

(2) 当該団体の事業計画又は事業の運営に関する重要案件の決定について、当該法人の許諾を要する等当該法人がその業務の運営に参画していること。

(3) 当該団体の事業に必要な施設の全部又は大部分を当該法人が提供していること。

四  抗弁に対する認否

1  別表1下欄記載のうち、福利厚生費否認額を争い、その余は認める。

2  厚生委員会は、社員により構成され、会員の福利厚生につき種々の企画、実行を目的とし、次のとおり、原告はその運営に関与しておらず、原告から独立した団体で、社団としての実質を備えたいわゆる権利能力なき社団であつて、原告の事業の一部ではない。従つて、厚生委員会の収益及び費用は厚生委員会に帰属する。

(一) 厚生委員会には専従の職員がなく、その事務及び会計は社員が厚生委員会の役員として行なつており、専従の職員により構成された事務局がないことは認める。

しかし、厚生委員会は、会則(甲第一号証)を有し、会長、副会長、会計、監査役、幹事、顧問等の役員を定め、これら役員を、原告の代表取締役及び総務担当役職者を除いた社員の中から選挙により選出することとしており、原告の役員又は従業員として一定の資格を有するものが当然に厚生委員会の役員となるものではない。

厚生委員会の事業計画は、毎年三月ころ、原告の各事業所毎にある厚生委員会の支部組織ともいうべき「もえぎ会」から事業計画と経費の見積が提出され、厚生委員会の幹事会で決定された厚生委員会全体の事業計画と合わせて、厚生委員会の本委員会で検討決定されるもので、これらの審議決定過程に原告が参画することは全くない。

厚生委員会に会議等に原告の施設を使用することに重要な意味は認められず、また、原告の施設外で会議等を行なうこともある。

(二) 原告が厚生委員会の事業経費の相当部分を負担していることは、争う。

(1) 厚生委員会の事業経費については、これらは厚生委員会がその正規の意思決定手続により独自の立場で決定したことであつて、原告が厚生委員会の運営に関与していることを示すものではないが、

<1> 昭和五七年四月から昭和五八年三月までは、社員が給与の一パーセント、原告が給与の三パーセントを拠出し、原告の負担割合は七五パーセントであつた。

<2> 昭和五八年四月及び五月は、社員が給与の一パーセント、原告が社員の給与の三パーセントを拠出し、同年六月から昭和五九年一月までは、社員が給与の一パーセントを拠出していたのみで原告の負担は零であり、同年二月及び三月は、社員が給与の二パーセント、原告が給与の二パーセントを拠出し、原告の負担割合は四〇・七パーセントであつた。

<3> 昭和五九年四月から昭和六〇年三月までは、社員が給与の二パーセント、原告が給与の二パーセントを拠出し、原告の負担率は五〇パーセントであつた。

右によれば、少なくとも、本件五八年度及び本件五九年度については、原告が厚生委員会の事業経費の相当部分を負担していたとはいえない。

(三) 厚生委員会の事業であるバカンス制度が、原告に永年貢献した社員に報いることを主たる目的とし、社員の勤続年数及び出勤率又は出勤日数を基準として定めた受益資格者に対し、その勤続年数に応じた特別休暇と金員を与えるもので、社員が、バカンス取得申請書を各所属長へ提出して出勤についての証明を受けるとともにバカンス実施時期についての承認を得たうえで厚生委員会に申請書を提出する手続であることは認める。

しかし、右の所属長の出勤についての証明とは、厚生委員会が所属長に出勤に関する調査を依頼し、その事実調査の結果の報告に過ぎず、また、右所属長のバカンス実施時期についての承認とは、現場の業務との関係で休暇をとることに支障がないことを確認するもので、社員が休暇をとることに異議をさしはさまないという消極的なものに過ぎず、バカンス制度の運営についての厚生委員会の独自性を否定するものではなく、これをもつて原告が厚生委員会の運営に関与していたとはいえない。

厚生委員会は、職場内外の安全及び衛生の確保ならびに健康管理の推進、バカンス制度の運営推進、リクリェーション及びクラブ活動の推進、労働時間短縮の推進、持家制度の推進、財形及び年金制度の拡充・推進、持株制度の推進、相互扶助活動の推進等をその事業内容としている。

厚生委員会では、社員の心身の健康の維持、増進、能力向上等を目的として、勤続五年、一〇年、一五年等に達した社員のうち出勤率等で一定の要件を充たす者に対して海外旅行費用に充てさせるため一定額の金員を支給するという制度を独自に運営しているのであり、具体的には、右資格要件を充たした希望者からバカンス取得の申請を受付け、右社員が右資格要件を充たしているか否かを審査したうえ、厚生委員会の会長が右申請を承認するか否かの決定をしている。原告がこの手続に関与することは全くない。しかも、右資格要件は、厚生委員会の幹事会及び本委員会にて、原告の意思によらず、改正することができる。厚生委員会は労働組合的色彩をも有し、右バカンス制度における休暇は、原告と交渉の末、獲得したものである。

第三証拠

本件記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告が、電子部品の製造等を業とする株式会社であること、被告に対し、本件各年度の法人税の確定申告をしたこと、被告が本件各処分をしたこと、原告が本件各処分につき審査請求をしたこと、以上の経過及び内容が別表1上欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  被告が主張する原告の所得金額の内訳は別表1下欄記載のとおりであるところ、同表記載のうち福利厚生費否認額を除くその余の部分は当事者間に争いがない。

被告が福利厚生費否認額を原告の損金と認めない理由が、原告が厚生委員会に金員を支出した場合、右支出の時点では未だこれが費用の支出と認められず、厚生委員会がこの金員を現実に費用として支出した時点で始めて原告が費用を支出したことになるものと解し、原告が厚生委員会に支出した金員のうち福利厚生費否認額については厚生委員会が現実に費用として支出していないとするものであることは、当事者間に争いがない。

ところで、以上の当事者間に争いがない事実及び弁論の全趣旨によれば、原告が、厚生委員会に対し少なくとも本件五七年度八万六四三八円、本件五八年度一九三万七一九八円、本件五九年度一三七二万二三三一円である福利厚生費否認額以上の金員を支出したこと、その確定申告において、右支出した金員を費用として確定申告の所得金額から控除していたことは、原告が自認するところと認められる。

また、厚生委員会が本件各年度の福利厚生費否認額を費用として支出した事実については主張、立証がない。

三  そうとすれば、本件の争点は、福利厚生費否認額を原告の損金に算入することの可否につきるから、以下、この点につき検討する。

1  成立及び原本の存在に争いのない甲第四号証、成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一ないし三、証人山本圭一の証言(一部)、同証言及び弁論の全趣旨により成立が認められる甲第三号証、甲第一、第二号証の存在、当裁判所に職務上顕著な事実、前示当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一)  原告は、電子部品の製造等を業とする株式会社である。

(二)  昭和五四年一月頃から、原告(会社)ではその従業員、役員の全員を構成員として、これらの者の福利厚生を目的とした「もえぎ会」を創設し、バカンス制度の運営、運動会の開催、クラブ活動などの行事を行なつてきた。

(三)  昭和五四、五年頃、もえぎ会は法人格もなく、運営等の基本的事項に関する規約もなく、代表者や会長の定めもなかつた。

(四)  もえぎ会の運営は各事業所から選出された者と、原告の代表取締役と管理部門担当取締役が出席した会議で協議決定されていたが、昭和五五年頃からこの会議は厚生委員会と呼称されるようになつた。

(五)  昭和五四年以降もえぎ会は、毎月原告からはその役員及び従業員の本給の三パーセントに当る額を、役員及び従業員からはそれらの本給の一パーセントに当る額を受入れ、これを同会の事業の費用に充てることになつた。

(六)  もえぎ会の行なつていたバカンス制度とは、入社後一定の年限を越える者に対し、一定の休暇と表彰金、さらにこれに加えて海外旅行費相当額などを与えるというものであつた。このバカンス制度は昭和五三年までは、原告が直接実施していた。

(七)  このバカンス制度に基づく休暇、表彰金、海外旅行費支給は、該当の役員などからバカンス取得申請書を提出させ、原告の各事業所又は本社において、工場長、事業所長、担当取締役(本社)など各所属長において、休暇の日数、時期、表彰金額を決定していた。

(八)  もえぎ会の会議は原告の施設で行なわれ、その事務的な事項は原告の職員が担当していた。

(九)  昭和六一年八月八日、原告が本件とほぼ同趣旨を含み提訴した昭和五四年四月一日から昭和五六年三月三一日までの二事業年度の法人税更正処分等取消請求事件につき、京都地方裁判所は「もえぎ会は原告から独立した団体とは言うことができず、そのように認めるに足る証拠はない」旨説示して、原告の主張を斥けた(京都地方裁判所昭和五九年(行ウ)第一七号昭和六一年八月八日判決)。

(十)  昭和六三年三月三一日大阪高等裁判所は、右事件の控訴審において「もえぎ会は原告の厚生委員会に従属するもので、原告から独立しているものとはいえない」と説示して一審判決を支持した(大阪高等裁判所昭和六一年(行コ)第三二号、第三三号、昭和六三年三月三一日判決)。

(一一)  厚生委員会は前示(四)のとおり昭和五四年五月頃からもえぎ会の運営会議をもつてそのように呼称するようになつたが、その前身は昭和五二年頃から存在した。昭和五七年四月頃社長室勤務でその直後取締役になつた山本圭一がこの厚生委員会の会長に就任したが、その選任過程は不明である。同年一二月一九日頃、同人は誰れからかにいわれて、自ら手書きで会社の用紙を用いて厚生委員会会則(甲第一号証)を作成したが、これが厚生委員会の総会など正式な会議で決議され、各会員に縦覧されたという証拠もなく、同人がその机に保管していたに過ぎない。

(一二)  昭和五九年四月一四日同人は厚生委員会会計規定を前同様の方法で手書きで作成したが、これも厚生委員会のいかなる機関で正式に制定されたものかは明らかでない。

(一三)  厚生委員会の行なう原告の従業員、役員の福利厚生事業やその運営の実体は前示(四)ないし(八)のもえぎ会時代のものと実質的に異なるものではなく、(1)厚生委員会は、原告の常勤役員、従業員及び幹事会が認めた者を会員とするが、それはほぼ原告の従業員、役員の全員が会員となり、会員の福利厚生について政策を企画し、会員の利益のためそれを実現することを目的としている。(2)その事業内容は、<1>職場内外の安全、健康管理、<2>バカンス制度の運営、推進、<3>レクリェーション、クラブ活動、その他の福利厚生に係る事業である。(3)厚生委員会の事業経費は会員が納入する会費と原告の提出する補助金で賄われているが、それはほぼ一対三の割合であつた。もつとも、原告(会社)の経営状態が悪化した昭和五八年六月から昭和五九年一月までは補助金の拠出を猶予ないし免除し、これが未収金とされたまま現在でも回収されずに放置されており、昭和五九年二月以降は原告(会社)と従業員等とが一対一の割合で会費を拠出している。なお、厚生委員会の会費の負担内訳、剰余金の増減計算などは別表2の計算明細のとおりであり、本件五七年度においては七五パーセント、本件五八年度においては四〇パーセント、本件五九年度においては五〇パーセントを負担し、その相当部分を負担しており、また、厚生委員会は、原告の四五〇万円余の多額の会費を未収のままに放置しており、かつ、原告に賦課された税金一九六三万四六〇四円をも支払つている。

(一四)  厚生委員会の主たる事業であるバカンス制度は、原告に永年貢献してきた社員(役員、従業員)の苦労に報いることを主たる目的とし、当該社員にバカンス(海外旅行等)のための特別休暇と金員を与えるもので、勤続年数と出勤日数を基準として該当の社員を選抜し、原告(会社)が特別休暇を付与するというものである。

(一五)  厚生委員会の事務、会計は会社の役員又は従業員である厚生委員会の役員が行なつており、厚生委員会の事務室などはない。

(一六)  原告(会社)にはとくに専従の厚生係員などはなく、総務の係員が担当していたが、そこでは保険の関係の健康診断の実施を担当する程度で、バカンス、レクリェーションその他は関与しておらず、これには専ら厚生委員会が当つていた。

右認定に反する証人山本圭一の証言の一部は、前掲各証拠、弁論の全趣旨に照らし速やかに措信できず他にこれを覆すに足りる証拠がない。

2  法人税基本通達一四-一-四は、

法人の役員又は使用人をもつて組織した団体が、これらの者の親ぼく、福利厚生に関する事業を主として行つている場合において、その事業経費の相当部分を当該法人が負担しており、かつ、次に掲げる事実のいずれか一の事実があるときは、原則として、当該事業に係る収益、費用等に係るものとして計算する。

(1)  法人の役員又は使用人で一定の資格を有する者が、その資格において当然に当該団体の役員に選出されることになつていること。

(2)  当該団体の事業計画又は事業の運営に関する重要案件の決定について、当該法人の許諾を要する等法人がその業務の運営に参画していること。

(3)  当該団体の事業に必要な施設の全部又は大部分を当該法人が提供していること。

と規定し、被告その他の税務署長は右通達に従つている。

3  法人税法二二条所定の法人の所得の金額の計算の通則、及び同法一一条所定の実質課税の原則に照らし、法人から実質的に独立していない福利厚生等を目的として組織された従業員団体は、実質的に法人内部の一機関と異ならず、その収益、費用は法人から右団体へ資金を拠出したときではなく、法人の一機関と目すべき右団体が現実に金員を授受した時点で、その団体の授受した収益、費用等の全額を法人の収益、費用等として計上するのが相当であり、前示基本通達の内容は右の趣旨に照らし、法の正しい解釈に合致するものである。

四  そして、前認定の各事実、弁論の全趣旨、並びに法人税法の解釈ないし前示基本通達の趣旨に照らし厚生委員会は原告から独立した団体ではないと認められ、原告が厚生委員会に支出した福利厚生費否認額、すなわち、本件五七年度においては八万六四三八円、本件五八年度においては一九三万七一九八円、本件五九年度においては一三七二万二三三一円は、法人税法上、未だ原告の右本件各年度それぞれの費用損金とはいえず、損金に算入することはできない。

したがつて、本件各処分につき、被告が原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

五  よつて、原告の請求はすべて理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 和田康則 裁判官田中恭介は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 吉川義春)

別表一

課税の経緯

<省略>

<省略>

別表二

福利厚生費否認に係る計算明細

<省略>

(注) 58.4~59.1 会員:基本給の1%、会社:基本給の3% 但し、会社は58.6~59.1の間支払を免除されている。59.2以後、会員:基本給の2%、会社:基本給の2%。

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